「は〜い、それじゃ今日のレッスンはここまで!みんなお疲れ様〜♪」
「ありがとうございましたぁ〜!お疲れ様で〜すっ」
「ドーナツ持って来たからたくさん食べて力つけてね〜v体動かした後は甘いものが一番だよ〜・・ぐはっv」
東京秋葉原スタジオPCA、橘薫先生の陽気な声に続いて、きゃぁ〜、やったー♪、などの可愛い少女達の声がレッスン室に響き渡った。
休憩室に入って来た大勢の少女達は我先にと言わんばかりの元気な勢いでテーブルの上に並べられていたたくさんのドーナツをもりもりパクついている。
「おーいしー♪」 「カオルちゃんのドーナツサイコーっv♪」
方々からそんな声が上がる。
PCA21、プリキュア戦士のお嬢様方はハードで厳しいダンスのレッスンも、辛くてやめたいと思ったことは一度もない。
担当振付師の橘薫先生のその屈託のない親しみのもてる愛嬌たっぷりの人格は、年頃の少女達の心をがっちりと掴んで離さない、彼特有の魔力のようなものがる。決して人を緊張させたりしないのだ。
彼はいつでも笑顔を絶やさず、メンバーが気落ちしている時などは進んで相談に乗ってくれ、また悪さをして先生に叱られて泣いている時などもいつもフォローに回ってくれる。
そんな彼をメンバー達はカオルちゃん、カオルちゃんと呼び慕っていた。
さらに、彼のレッスンが大好きという理由のもう1つがコレだ。
彼はエージェントとして、振り付け師として活躍する傍ら、いつもはドーナツ屋さんを経営している。そのドーナツを差し入れにいつも持ってきてくれるのだ。
このドーナツがプリキュアメンバーは大好物だった。
そう、中には大好きなダンスとドーナツが一緒に味わえるからとプリキュアメンバーになったコもいる。
ぱくり。
「あーーーっっっ!ラブちゃんズルイ!」
「それアタシのぉ〜〜っっねえ、返してぇ〜〜っっ」
「きゃははははvザ〜ンネンでしたぁ〜vカオルちゃんのドーナツはあ〜常に早い者勝ちなのだよのぞみくん、響くん!」
最後に残っていた大人気のクリームエクレアドーナツを取られて大不満の悲鳴を上げる夢原のぞみと北条響。その2人にキッパリと競争の厳しさを教えているドーナツを頬張っている彼女こそ、プリキュア入りした最大の動機を
ダンスとカオルちゃんのドーナツが味わえるから!
と、なんとも安穏とした動機でメンバー入りしてのけたツワモノ。
桃園(ももぞの)ラブであった。
プリキュア第4期メンバーであり、チームフレッシュのリーダー。他のメンバーには蒼野美希(あおのみき)、山吹祈里(やまぶきいのり)、東(ひがし)せつななどが在籍している。とにかく彼女はダンスが大好きで活発で元気な女の子で、PCAのメンバーの中でもとかく、ムードメーカーとして活躍している。
そんな彼女のお決まりの行動と、響やのぞみとのいつものじゃれ合いを見ていて、マミヤやレイア、ベラなどはやれやれと呆れながらも微笑ましくその光景を見守っていた。
「まったく、ラブったら、あのコ達落ち着きがありませんよねぇ先輩」
「そうね。でもそれがらしいと言えばらしいけどね」
「元気なのは結構だが、締めるところはきっちり締めないとな・・・バット、ところでケンシロウ達はどうしている?」
「ああ、ケン達ならホラ、そこにいますよ」
ベラはプリキュア達を見ながら、横で片づけものをしているバットに向かって言葉を述べた。聞かれたバットは休憩室の一番右奥のテーブルを指差して答えた。
「オイ!ケンシロウ、そこは俺の席だ。どけ」
「断る。席など決まっていない。そうだろ?ココ」
「え・・ええ、まあ・・・」
「俺の中では決まっているのだ!どけ」
「断る。席は自由だ。なあ?ナッツ」
「ああ、そうだな・・・」
「この拳王に楯突くというか!?うぬらはこの世紀末覇者の前での己が立場をなんと心得るかぁ?」
「この場に拳王などいない。ラオウ、お前の今の立場はただのPCAトゥエンティーワンのバイトスタッフだ。だろ?タルト」
「う〜ん・・・まぁそういうワケになるんやけども・・・」
「なぁにぃ〜〜?あくまでこのラオウに牙を剥くと言うかぁ!?身の程を弁(わきま)えぬその愚行!我が拳王の拳によって知らしめてやっても・・・」
「ラオウ、チョコレートドーナツ食べないのならいただくぞ。あーん、ムッシャムッシャモグモグ・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・あ、ラオウのダンナのドーナツ、トキの兄さんが食べてしまいよったで・・・」
「俺のものだあぁあーーーーっっ!!席が落ち着いたら喰う予定だったのだあぁーーーっっ!!何をしおるかトキぃーーーっっ!!」
「うわあぁあ〜〜〜〜っっ!?」
突然上がった怒号。
少女達のレッスン後の安らかなおやつタイムが場に似つかわしくないイカツイ三兄弟の兄弟喧嘩で切り裂かれた。慌ててココが仲裁に入る。
「ドーナツ返せえぇーーっっ!貴様ら弟がこの長兄に何たる振舞い!天に滅せいっ!ぬぅあだだだだだだっっ!北斗輯連打(ほくとしゅうれんだ)!」
「ボヤボヤしているからだぁーっ!いやぁー!天翔百裂拳(てんしょうひゃくれつけん)!」
「序列など関係あるかぁ!北斗百裂拳(ほくとひゃくれつけん)!あたたたたたたぁーーっ!」
「ちょっ・・ちょっと見てないで止めろよっ!ナッツ!タルトぉ!」
「断る。労力のムダだ・・・」
「近づいたらアブナそうやし・・ワイは知らんでー」
あっという間にたかがドーナツで大喧嘩を始めるケンシロウ達を見て心配しているのはココだけでナッツもタルトも我関せずである。
まわりのプリキュアも逆に面白そうに眺めていたが、ここで雪城ほのかが立ちあがってケンシロウ達の前に進み出た。
「もう!ケンシロウ先生達、みっともないですよ?たかがオヤツのことくらいで、ケンカはヤメテ仲直りしてください」
「なんだ小娘ぇ?貴様もこの拳王に意見すると申すかぁ!?」
「意見します!ラオウのおじさま!これ以上乱暴するようなら社長さんに相談してもう皆さんのスタジオへの出入りを控えてもらいますよそれでもいいんですか!?」
「なにぃーーっ!?出入り禁止だとぉぉ!?」
「それでは折角見つけた職がまた無くなるではないか!」
「これが乱世の運命(さだめ)かあ!?この拳王にもまだ涙が残っておったわぁ〜〜〜・・・」
「だったら、仲直りしてください!ソレが終わったら、ホラ!片付けもして下さい。散らかしっぱなしはダメですからね!」
「「「・・・・・はぁい・・・」」」
まさに鶴の一声。
ほのかのお叱りでそれまで暴れていた北斗三兄弟。シュンと大人しくなりそそくさと片づけをはじめた。
「・・・・スッゲ・・・ほのかちゃんタダモノじゃねえな・・・」
「そ・・そうね、ゆりとほのかはみんなのお姉さん的存在だから頼りになるわね・・・」
バットとレイナが情けない大人をキッと諌める逞しいほのかの姿に冷や汗をかきながらも感心する。
そもそもまだ高校1年生くらいの彼女に叱られる大の男どもの方がどうかと思うがその辺はあえて2人とも突っ込まない事にする。
しかしレイナはそこであることに気がついた。
「?・・でもちょっとまって・・ケンシロウはともかくなんでラオウやトキまでココのスタッフみたいになってるの?バイトはケンシロウだけでしょ?」
「ああ・・・いや、それがですね・・・」
尋ねられたバットがまたしてもハア・・と肩を落としながらその理由を説明し出した。
なんと、この北斗三兄弟。
日頃のあまりにも空気を読まない、傍若無人な振る舞いにとうとう仕事が無くなってしまったのだそうだ。
ケンシロウは愛治学園で臨時のアルバイト教師をしていたが、パソコンを素手で何台も壊して謹慎中。
ラオウはブンビーの現場はその暴力と重機を使わなくても工事を力任せで進められる腕力を買われて建王となったが、逆に他の現場では建築資材を次々と破壊してしまいクビ。
トキはトキで経営していた接骨院の近くに超近代設備の整った総合病院が出来てしまい客を取られて休診状態。何とかアルバイトを探すも行く先々で吐血してしまい不採用の嵐。
ケンシロウのスタッフアルバイトの微々たる給料ではかなり生活がキツク、また三兄弟の分不相応な乱費癖も仇となり、とうとう財産が破綻しアパートの部屋を追い出されてしまったのだという。
またしても行き倒れていた三兄弟を冨永鈴が見るに見かねてマミヤに相談したところ、マミヤが愛知学園の理事長、つまりはリンの父親である冨永ファルコになんとかしてくれと頼み込む。そしてファルコが親友である五車プロモーションの社長である青野李伯(あおのりはく)にケンシロウだけでなくトキとラオウも雇ってくれないかと頼んだところ、アルバイトスタッフとして時給750円で雇ってもらったらしい。
しかしバットの苦労話はコレだけで終わらなかった。なんとケンシロウ達は今は元お隣さんだったバットの部屋に居候状態で転がり込んでいるらしい。
何の因果か呪いか知らないが、おかげで今ではバットが掃除洗濯から食事の用意までしてやっており、完全に世話給仕のお兄さんと化しているとのコトだ。
「ったく!ジョーダンじゃないぜ!なんだってオレがこんなことしなきゃならねえんだ?そうでしょレイナさん!」
「そ・・そうね・・・タイヘンねバット・・・」
あまりの身の不幸さにレイナも思わず同情の声を漏らした。
そんな彼らの苦労話は1人の来訪者によってさらに崩壊することとなる。
バアンッ!と突然勢いよく開けられた休憩室のドア。プリキュアメンバー達全員がそのドアの方へと意識を集中した。するとそこには青い髪の美しい顔立ちをしたお兄さんが汗びっしょりになりながら、ハアハアと息を切らして立ち尽くしていた。
「ああぁぁ〜〜〜〜っっっ!?レイさん!」
その男性を見て、いつきが叫んだ。
そう、彼こそは芸能界の人気モデルであり、俳優としても名が売れているイケメン芸能人、塩沢麗(しおざわれい)その人であった。
いつきは例のドラマで共演して以来、何かと仕事で一緒になることが多かったのだ。
「おお、キミは確かPCA21の明堂院いつきくん・・・ここに霞拳四朗はいないか!?」
「はっ・・はあぁ?」
訳も分からず、全員目がテンである。バットがクエスチョンマークを顔一面に浮かべて声を漏らしたが、いち早く異変に気付いたココが現れた男に近づく。
「え・・えっと・・どんなご用件でしょうか?ケンシロウさんにどのような用が?」
「む?お前は・・・レイ!南斗水鳥拳(なんとすいちょうけん)のレイではないか」
「え!?ケンシロウさん!モデルのレイさんと知合いですか?」
「ああ、ヤツは俺の強敵(とも)。南斗水鳥拳を使う男だ・・・」
全員の疑問を背に受けてケンシロウがスタスタとレイのもとへと歩み寄る。
「どうしたレイ?何があった?」
「じつは・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「〜〜〜〜〜っっ・・・」
「・・・ハァ〜〜・・ジャギさん、ババ抜きでそんなに悩まないで下さいよぉ〜」
「何を抜かすかサラマンダー!勝負に勝つか負けるかの大一番がかかっているのだぞぉ!?この世は全て勝つか負けるか?喰うか喰われるか?殺るか殺られるかのどちらかだあぁ〜〜っ!?よぉーし、今度こそ!コッチだあぁーーっっ!・・・ぬがあぁぁ〜〜〜っっ!!?またババだとおぉおっ!?何故だ!?何故何度やっても勝てぬぅ!?コレで5連敗だあっこれもケンシロウの仕業かあ!?おのれケンシロウーーーっっ!」
「・・・・今度は何してんだか?」
ところはワルサーシヨッカー本社ビルの社長室。
今日も社長、サラマンダー・藤原と霞邪義の2人は仕事そっちのけでババ抜きに興じていた。いい加減見慣れた光景だとは言え、オリヴィエはいい加減な姿勢に呆れ果てていた。大の大人が真昼間から仕事もしないでババ抜きである。
サラマンダーの一人息子である藤原オリヴィエは毎度のことながら、この父とジャギさんの全く仕事もしないで昼間から遊び呆けている姿にもはや最近では突っ込む気すら起きなくなってきた。今日の遊びはトランプでババ抜きである。
「ねえ父さん。仕事はしなくってイイの?」
「仕事ぉ〜?ちゃんとしてるさぁ、今日だってちゃんと幹部会議に出たし・・」
「・・・ただ居眠りしてただけなんじゃないの?母さん言ってたよ、下向いてずっと考え込んでおられましたv・・とか言ってたケドさ・・」
「え!?ウソ!?まさかアナコたんに見られちゃった!?」
やっぱりそうかよとガクッと項垂れるオリヴィエ。あのキビキビとして自他ともに厳しい母が何故にこんないい加減な父に骨抜きにされて結婚したのか今思うと不思議でならない。仮にも社長なのだからもっと社員の手本となるような振る舞いをしてもらわなければ示しがつかないのではないか?
まだ年端もいかない子どもながらこんな常識的考えをもっているオリヴィエの無言の視線から発する圧力を感じ、サラマンダー藤原は「コホンっ」と1つ咳払いをしてからオリヴィエに言った。
「そ・・そんな目で父さんを見るもんじゃないオリヴィエ。モチロン!仕事に関してはちゃあんと次のお仕事にとりかかってるさ」
「え〜〜?・・・なんかウソ臭いなぁ〜・・ホントなの?」
「ホントにホントさ!ねえジャギさん」
「ん?・・ああ、そう言えばさっきその小僧が来る前までウラ・・ガ・・なんとかかんとかってデッカイヤローになんか仕事頼んでたなお前。一体何の話してたんだ?」
「んっふっふvそれはジャギさんにもヒミツですよぉ〜♪」
「んなあぁにぃ?この俺にこともあろうにヒミツだとお!?オイ!サラマンダー!俺を誰だと思ってやがる!?俺の名前を言ってみろお!?」
「私の頼りになるパートナーで、北斗神拳の天才・霞邪義さんですよね?これからもよろしくお願いします」
「あ、これはご丁寧に、こちらこそヨロシクオネガイシマス・・・ってちっげえぇ〜〜〜っっ!!コラ!サラマンダー!お前俺バカにしてるだろ?してるだろおーー!?教えろ教えろ教えろってばああーーーっ」
「う〜〜ん・・じゃあ今度は神経衰弱で私に勝てたら教えて上げます。どうですか?」
「いよぉーし!望むところだあっ!さあ、かかってきやがれぇ〜」
しばしいつものコントを拝見して、オリヴィエは考えた。
父の言う次のお仕事とは一体?それに、誰に頼みごとをしていたのか?
フウ、と息をついて窓の外を眺める。
実にいい天気だ。
(・・・プリキュアのみんな・・・今日は父さんたちに困らせられてないかな?)
「何!?アイリが捕まっているだと?」
「ああ・・・男好みの服を着せられ・・日夜血を見、骨の軋む音を聞かされ、肌をさらした男の相手をさせられるような凄惨な重労働を強いられているのだ・・俺は兄として・・・アイツのこの窮地をなんとしても救わねばならないっ!」
(・・・って、一体ナニ!?そのえらくバイオレンス風味盛り沢山で世紀末な表現!?)
一方こちらまだ今日はワルサーシヨッカーには困らせられていないプリキュア戦士のお嬢様方の休憩控え室。
悪の軍団には悩まされなくても近頃ヤケにホクトとかナントとかの意味不明の空気の読めないお兄さん達に沢山困らせられることがある哀れなお嬢ちゃん達は、今また、現れたレイという世間一般ではモデル、俳優として名の通ってる人物の、突然の訪問を受けていた。
そのお兄さんが語るあまりにも現実から飛躍した暴力的な描写に、またもスタッフの間の数少ない常識人、バットが心の中で突っ込みを入れる。
(血を見て骨の軋む音を聞かされるって・・一体なんの職業だよ!?あるか!そんなバイオレンスな職がこの現代社会に!)
バットはそう思ってそのアイリという女性が一体どんな状況に置かれているのか確かめようとレイに確かめようとしたのだが、それより先にケンシロウたち北斗三兄弟が揃って訪ねた。
「なんたる外道!女子(おなご)をそのような悲惨な場で無理矢理働かせるとは・・」
「この拳王が統治すべき世にかように醜き職場があろうとは、許せんっ!」
「アイリは今どこに!?」
「いやお前ら本気にしてんのかよ!?」
「おおっ!行ってくれるか?」
すっかりそのレイの妹、アイリの職場へと行く気満々の北斗三兄弟と顔を輝かせるレイ。
マミヤはそんな彼らを見て、ため息をつくとレイに歩み寄って言った。
「レイ・・ちょっと落ち着いたら?」
「お、おお!マミヤ!お前もここにいたのか!?そうか、お前がマネージャーをしているアイドルグループとは、最近巷で大人気のPCA21だったのだな」
「え?マミヤ先生知り合いなの?」
キョトンとしてマミヤを見上げる夢原のぞみと夏木りんの2人にマミヤは小さな声で「ちょっとね・・」と言う、そのままレイに続けて話す。
「アイリが自分で選んだ仕事じゃないの?それを見守ってあげるのがお兄さんとして大事なんじゃない?」
「何を言うかマミヤ!アイリはきっと強要され、イヤと言えない状況に追い込まれてイヤイヤ働かされているに違いない!嗚呼・・可哀想なアイリよ!兄さんがきっと助けに行くぞ!」
「うん!そうだね!ねえ、みんなも手伝ってあげようよ!」
と、不意にプリキュアメンバーの中から元気の良い声が上がった。
見ると、先ほどまでドーナツについて熱く語っていた桃園ラブが爛々と輝く決意に満ちた眼で机の上にお立ち台よろしく立って、レイと北斗三兄弟、そしてほかのメンバーを見下ろしていた。
「・・ら、ラブ?」
「こら!ラブ!机の上に上るなんて!はしたないでしょ女の子なのに!すぐに降りなさいっ!」
レイナに叱られてもまるで怯まず、ラブは意気揚々と周りのメンバー達にこう呼びかけた。
「ねえ、今日この後お仕事入ってないコ、一緒にレイさんの妹っていうそのアイリさん、助けてあげようよ!可哀想じゃん、好きでもないお仕事沢山やらされてさ。アタシ、そーゆーの許せないっ!ねえ、アタシも行くからだれか手伝ってよ!」
「い・・いやでもねラブ・・それってわからないじゃない?ホラ・・その・・マミヤ先生も言われたことだけどレイさんの勘違いってコトもあるんじゃないかしら?」
「ヒドイ!かれんさんてば、もしアイリさんが怖くて悲しくて泣いてたらどうするの?アタシ・・放っておけない!」
「そうですよね〜わかる!あたし、ラブさんの気持ちわかります!」
「わ・・わたしも・・好きでもないお仕事・・やらされるなんて・・イヤ・・です!」
「よーっし!ラブちゃんと一緒に、アイリさん助けにいっちゃうぞ〜vけって〜い♪」
「でしょでしょぉ〜?さっすがのぞみちゃん!ハナシがわかるや!うららちゃんにひかりちゃんも!わかってくれると思ってた!」
ラブの呼びかけに仲のいい夢原のぞみと、近くにいた春日野うらら、九条ひかりも同調する。そしてすっかり可哀想な女性、アイリさんを助けにその職場に乗り込む気満々である。
うららとひかりはどちらかというとラブの訴えに思わず応えてしまった形だが、もうのぞみなどはラブと一緒にきゃいきゃい♪と騒いでいる。
「おおっ!それではアイリを助けるのを協力してくれるのか?」
「大丈夫だよレイさん!アイリさんのことはアタシたちにまかせて!」
「いや・・だから別にそう決まったわけじゃないでしょ!もっとちゃんと確認してからじゃないと・・・って聞いてるのアンタたち!?」
「くるみさん、かれん、もうダメよ。ラブさん、すっかりその気だもの・・・ああなったら・・・」
「そうよねえ・・ラブさんって一度思いこんじゃうとテコでも聞かないタイプだから・・」
「・・ってか単純すぎだってば・・」
レイを巻き込みながらさらに加速するラブの勢いに、遠巻きに見ていた美々野くるみ、秋元こまち、そして美翔舞や黒川エレンなどもお手上げ。という感じで事の成り行きを見ていた。
「ねえねえ!ミキたんに、ブッキーにぃ、せつなも手伝ってよ!」
ラブは今度は少し離れたところで雑誌を読んだり、振り付けの確認をしていた同じチームフレッシュの蒼野美希(あおのみき)、山吹祈里(やまぶきいのり)、東(ひがし)せつなに声をかけた。
3人はちょっと困ったようなそぶりを見せてから静かにラブにきりだした。
「ねえ、ラブ?気持ちはわかるけど・・・一応先生に聞いたほうがいいんじゃない?」
「そうよラブちゃん、こういう時は自分で判断するより、マミヤ先生たちに聞いた方が確実だわ」
「またラブの勘違いってコトも・・・ホラ・・あるかもしれないし・・ね?」
「え〜〜?そうかなぁ〜?ねえ、そうなの?マミヤ先生、レイナ先生」
純粋に疑問を投げかける可愛い瞳で問い訪ねてくる教え子、マミヤとレイナは顔を見合わせる。
「どうします?先輩」
「ハァ〜・・そうねえ〜・・」
「たのむ!マミヤ!アイリの命が懸っているのだ!人では多いほど助かる!」
考え込むマミヤにさらにレイが悲痛にもとれる懇願を求める。
ラブ達の気持ちは嬉しいが、アイリのこととなると思い込みの激しいレイ。少し嫌な予感がするのも事実だ。
押しかけてせっかくアイリが望んだ仕事を手に入れたのにそれを自分たちが余計なおせっかいによって土足で踏み荒らしてしまう可能性もあるのだ。
そんなことに、可愛い教え子達を巻き込んでよいものか?本来ならば自分がレイについて確認に行ってやれば一番手っ取り早いのだろうが・・・
マミヤはラブをチラリと見て少し項垂れた。
キラキラと断固たる決意に輝く彼女の眼。今さら来るなとは言えない・・・。
(・・・一応連れて行って・・・何事もなければそれですぐに戻ってくれば大丈夫かしらね?ラブ達だってそれ以上は追及しないでしょ・・)
「わかったわ。そのかわり・・・ぜっったいに!勝手な行動は慎むこと!いいわね?」
そのマミヤの一言に、レイ本人よりもラブやのぞみの方が「きゃあぁ〜〜〜〜vぃやったあぁ〜〜っ!」と歓声を上げた。一体何をしに行こうとしているのかこの子たちはわかっているのだろうか?
こうして、レイの妹アイリが、無理矢理強制労働を強いられていると言うその職場に、塩沢麗、そしてケンシロウ、マミヤ、プリキュアメンバーはラブにのぞみ、うらら、ひかり、美希、祈里、せつな。それとどうしてもおともをしたいと聞かなかった妖精、ポルンとその保護者代わりにタルト、ココ、そしてナッツも付いている。人間の姿になれるココやナッツ、見た目がフェレットのタルトはともかく、ポルンは絶対にぬいぐるみのフリをするし、いざというときはひかりのコンパクトになって動かないから!と念を押してついてきた。そして哀れむべし、なんの因果かバットまで連れて、結果かなりの大人数で押しかける形となってしまった。
(なんでまた俺まで・・・ってか、このメンバー・・絶対に悪い予感がするんですけど・・・どうか何事もありませんように・・・)
そんなバットの悲痛な願いは・・またしても粉々に粉砕されることとなるのだった・・・。
そんなバットにラブは元気に声をかけた。
「ホラ、バットさんも!そんな暗いカオしてないで!みんなと一緒なら絶対にレイさんもアイリさんって人も助けられるよ」
「い・・いやねラブちゃん・・あの手合いの連中には関わらない方が・・・ってオイ聞いてるか?」
全く疑うことを知らない純真無垢な少女はバットの心配事などどこ吹く風。満面の笑顔で親指を立てて自信満々言い放った。
「みんなで、しあわせゲットだよ!♪」
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「ん〜〜・・ありゃあプリキュアたちじゃねえか?なんだアイツら?どこに行こうってんだ?」
スタジオPCA屋上。
スタジオから大勢で出てきた彼女たちを屋上から眺める大柄な男が一人。
赤い体は小山のような巨躯で口元に髭を蓄えたターバン姿の大男。
彼こそは今回プリキュア襲撃の任務をサラマンダーに仰せつかったザケンナー部門三部長の1人、高木浦賀乃棲(たかぎウラガノス)であった。
彼はこのスタジオ内で騒ぎを起こしてプリキュアを始末する予定であったが、以外にもメンバー数人がスタジオを抜け出たことで予定を変更した。
「へっへっへ・・何しに行くのかは知らねえが・・ちょうどイイじゃねえか。アイツらが行ったその場で俺が直接叩き潰してやる!覚悟しろよプリキュア!」
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「ハイ、山口さんのところのおじいちゃん、採血終わりましたよ〜。」
「いつもスマンね〜、看護婦さん。助かるよ」
「いいえ、ハイこれお薬です。先生の言いつけどおりにちゃんと飲んで下さいねvお大事に〜」
今日もいつもと変わらぬ職場の風景。
彼女は通院患者の年配男性を見送りながら、次の患者を予防と名簿を眺める。
「さて・・・次の患者さんは・・と」
「アイリ!」
「!・・え?」
ふと、聞きなれた声が自分の耳に飛び込んでくる。
名前を呼ばれて彼女は名簿から顔を上げた。
「!・・に、兄さん!?」
「アイリ!見つけたぞ無事だったか!?」
「え?なんで兄さんがこんなトコに?どうして?あら?マミヤ姉さんまで!?どうして・・・」
「こ、こんにちはアイリ・・・その・・実は今日はね・・・」
アイリと呼ばれたまだ年若い女性。
目の前に広がる理解不能な情景に、絶句し、戸惑いの表情を見せていた。
所は東京吉祥寺に広大な敷地を有する大きな病院、田和馬(たわば)総合病院。
ここで働く塩沢愛梨(しおざわあいり)はおよそ病人とは思えない知り合いが突然大勢の少女たちを引き連れて現れたことに困惑を隠せなかった。
「アイリ!お前を助けに来たんだ!さあ、もう大丈夫だ!兄さん達と一緒に帰ろうっ!」
「え?帰ろうって・・・わたしまだ仕事中だし・・・」
「なにを言っているアイリ!お前は働く必要などない!兄さんに任せておけっ!」
「働く必要って・・・兄さん!わたし自分で働きたくてココで働いてるの、憧れだった看護師になれたのよ!」
(看護婦さんじゃねーか!そりゃ男好みの服着て、服脱いだ男見たり、血を見たり骨が軋む音とか聞くような事もあるだろうけど!!)
どんな仕事かわかって付き添って来ていたバットは心の中で激しく突っ込んだ。バットがふとマミヤを見ると彼女も沈痛そうな面持ちで頭を抱えている。
「アイリくんどうしたのかね?もう患者さんは終わりかな?」
「あ!スミマセン先生、すぐにお呼びします。兄さん、私まだ仕事中だから・・・早く帰ってね」
「嗚呼、アイリ・・・可哀想なアイリよ。もはや自分の意思すらわからず奴隷のように言いなりになって働かされるとは・・・許せん!断じて許せん!俺がなんとかしてやらねば・・・」
全くアイリの話の意図を汲み取ろうともせず、一方的に自分の誤った考えをどんどん飛躍させていくレイ。その様子を見てバットはひとつの結論に達した。
(ああ、わかった。この人、凄いシスコンなんだ・・・)
と。
「どうやらこれはやっぱりレイの思い違いだったみたいね」
「ってマミヤさんわかってたんスか!?」
「ええ、レイとは昔からの付き合いだから・・まあ、アイリの性格も考えるとそうなんじゃないかとは・・なんとなく思ってたケド・・・」
「イヤ、だったらもっと早くに教えてくださいよ!ここまで来たの思いっきり無駄足じゃないっスか!?」
マミヤの冷静な答えにバットは今度はマミヤにも突っ込んだ。
全くコレでは突っ込みで自分の身が持たない。ケンシロウ達だけでも既に手いっぱいだというのに・・・。
ガックリ下を向いて溜め息を吐くバットに桃園ラブが心配そうに聞いてきた。
「ねえ、あの人ホントに大丈夫かな?バットさん・・・」
「ああ、大丈夫大丈夫。病院の看護婦さんだからりっぱな仕事だよ。イジメられてる雰囲気もないし、あのレイさんって人の勘違いだろうさ。ねえマミヤさん」
「そうね。さ、戻って今日は早めに解散しましょう」
マミヤ先生のその一言で、他のプリキュアメンバーもよかったよかったとスタジオに戻ろうとした時だった。
「?ラブ?」
東せつながラブの様子がおかしいことに気づいた。レイの方に寄り添い、意気消沈するレイに今だ寄り添い、納得いかない!という顔をしている。
「どうしたの?ラブ・・帰りましょ」
「何してんのよラブ、もうここに用なんてないでしょ?」
「体の調子でも悪いのラブちゃん?だったら見て上げましょうか?」
「ねえねえラブちゃぁん、早くかえろー。かえってもうちょっとドーナツ食べようよ!けってーいっ!♪」
ラブの様子が変わったことにまだ気づかなかった美希や祈里、のぞみもラブの肩に手を置き、帰るようにそれとなく促してみる。
しかし、当のラブはそんなせつなや美希たちの声を振り払うかのように「ダメだよ!」と一言発すると、レイの手を握って力強く言った。
「ねえレイさん!レイさんはまだアイリさんのことが心配なんですよね?」
「あ・・ああ!アイリは・・・アイリはこの世でたった1人の俺の妹だ!アイリのためなら俺はなんだってできる!」
「ねえ、マミヤ先生!レイナ先生も!まだアイリさんのコト、アタシ解決してないような気がするの。だからお願い!もう1度レイさんと一緒にアイリさんに会わせて!」
(えええぇぇえーーーーーっっ!?こっ・・このコ話わかってねええぇえーーーーっっっ!)
そんなラブの真剣な顔をして言う言葉にバットは言葉には出さずに強烈に突っ込み、レイナとマミヤは「またか・・・」という表情になった。
コレがラブの最大の長所でもあり、また短所でもある。
この娘はいつもそうだ。自分が信じたことには何が何でも一直線でまっしぐら。ちょっとやそっとのことでは絶対に諦めない。妥協という言葉を知らないのだ。
それが自分だけのことならともかく、この娘の場合は友達のことにまでそうやって首を突っ込む。
良い風に解釈すればとても友情に厚くて優しい女の子なのだが、悪い方に捉えると少々お節介が過ぎる。
彼女のその性格や行動で救われた子もPCAの中には多いのだが、そのせいでえらく迷惑を被るものも・・・大人の中には取り分け多かった。
今はアイリ自身がこの仕事は自分の好きで始めたとハッキリ述べていたし、バットが先ほどシスコンと評したレイの行動パターンから察するに恐らくはレイの思い違いなのだろうが、ラブの気持ちからすればレイのコトが少し可哀想に
なってしまったのであろう。この子なりにこのシスコンで妹離れのできない哀れで空気の読めぬ男を心から気遣っての言葉なのだ。
それがわかっていたからこそ、マミヤは軽く息をつくと、ラブの目線の高さまで自らの長身を屈ませ、静かに優しく教えるように言った。
「ラブ、あなたの優しい気持ち・・先生すごく嬉しいわ。プリキュアですものね、人に優しいのは本当にいいことよ。でもね、さっきアイリさんが言ってたでしょ?この仕事は自分が好きで始めた仕事だって、ラブだってダンスが大好きよね?もしもラブのお母さんが、ラブが可愛くて、ケガでもしたら心配だからという理由で、ラブの為だと言ったとしても大好きなダンスを禁止されたらラブはどう思う?」
「それって・・・ただのお節介じゃない!」
「そうね、でももし、今からラブがやろうとしてることがそのお節介だったら?」
そう言われてしまうとラブも言葉に詰まった。
自分が大好きなものを例え自分を思っての行動だとしても奪われてしまうなんて死んでもイヤだ!ダンスも、ドーナツも、プリキュアも、ここにいる沢山のともだちだって。もしそんなことになってしまったらラブは絶対にお母さんを恨むだろう。
「・・・・・」
ラブがチラリとレイの方を振り返る。すると彼は自分ではなくケンシロウに救いを求めている最中だった。
「頼む!ケンシロウ!強敵(とも)として!この俺に力を貸してくれ!」
「うむ!強敵(とも)の頼みならば断わる理由はない。俺も喜んでアイリを救おう」
「ってソコーーっ!!まるっきり話聞いてねえだろーー!」
「すまない、ラオウ、トキ、お前たちもいてくれれば心強い!」
「医学とは人を救うもの・・・その医学を隠れ蓑にしてか弱き乙女を縛るとは・・・許せんな。私も協力させてもらおう!」
「この拳王が造りし覇道の世にそのような軟弱なシノギは不要!天に滅してくれる!」
マミヤがラブに向けて話したこともバットの突っ込みも何のその、レイとケンシロウ達北斗三兄弟はアイリを病院から連れ出すべくズンズンとアイリが去って行った方へ向けて歩き出した。
「ってちょっと待て待て待て待てお前ら!ドコ行く気だっ!?」
とその背中にバットが慌てたように突っ込みの言葉をかける。立ち止まり振り向いたケンシロウたちは「なんだ?この上に・・」とでも言いたげにバットの方を振り返る。
「レイの妹、アイリを救いに行くのだ」
「だぁから落ち着けっての!まだアイリさんの気持ちがどうかもわからんだろーに・・・特にソコ!ラオウっ!」
「む?なにか用か?この拳王に意見するとはいい度胸をしたヤツ」
「いい度胸もへったくれもねえんだよ。その馬はなんだ?」
言われて周りのプリキュアメンバー達も、レイナも冷や汗まじりで頷いた。
彼は病院内でさも当然のように愛馬・黒王号(こくおうごう)に跨っていたのだった。
ラオウが黒王をジッと見つめると黒王は「ブルルン!」と威勢よく鼻を鳴らす。
「あのなあ、キホン病院とかこういう施設は動物、ペットの類は禁止なんだよ!」
「黒王は動物ではない。この俺の得難い朋(とも)だ」
「ナニそのメンドウなクレーマーみたいな理屈!?とにかく馬はヤメロ!降りろ!直ちに降りろ!」
「まって、レイさん!アタシも行くよ!」
「ちょっ・・ちょっとラブぅっまちなさいよっ!」
「マミヤ先生やレイナ先生に言われたばかりじゃない、自分で決めて行動しちゃダメよ」
馬の連れ込みまでやってのけた大暴走必死のケンシロウ達に付いていこうとするラブを蒼野美希と東せつながとめる、ラブは少々ふくれっ面で美希たちを振り返ったが、そんな不満顔の彼女にマミヤとレイナが少し語気を厳しくして言う。
「ラブ、マミヤ先生もわたしも言ってるでしょ?アイリさんなら大丈夫だって、あの人は自分の意思でここにいるのよ?ココで就職して働いてるの」
「で・・でも・・・だって・・・っっ!」
「いい加減になさい。これ以上聞き分けないこと言うと・・・先生怒るわよ?」
「そうよ、言うこと聞かない悪い娘はPCAのルールでどうなるんだった?」
そう言われてラブもうぐっと顔を強張らせて固まった、反射的にお尻に手が動く。
しばらく立ち去ってゆくレイ達の背中と自分を見つめるチームフレッシュのメンバーやうららやひかり、のぞみ、そしてマミヤ先生達を交互に見比べ、困った表情を浮かべていた。
が、ケンシロウ達の姿が突き当りの廊下で見えなくなろうかという瞬間、ラブはマミヤ達に背を向けてケンシロウ達の方へと猛ダッシュした。
「!ラブ!ちょっと・・」
「あーっラブちゃんダメだようっ!またマミヤ先生とレイナ先生に叱られちゃうよっ」
「こぉら!ラブっ、まちなさいっ!」
せつなやのぞみたちの制止も振り切り、ラブはとうとうケンシロウ達の後を追って行ってしまった。
「もうっ!まったくあのコったら!」
「・・・なんであのアイリって人の反応見てもレイさんたちが正しいって思えちまうんだろう?」
行ってしまったラブの背に向かって、レイナとバットがそれぞれ言葉を漏らす。レイナはそのままマミヤに意見を求めて話しかける。
「どうします先輩?行っちゃいましたケド・・・」
「放っておくワケにもいかないでしょ?連れ戻しに行きましょう・・・ったく、ああいう性格治らないわね。少し叱らなきゃいけないかしら?」
そのマミヤの言葉にその場にいた全員が青い顔で怖気を震った。
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「ほほ〜う、ココの病院だなぁ?プリキュア達が入って行った病院は・・・病院ってアイツらビョーキでもしたのかな?まあなんにせよ今がチャンスじゃねえか。サラマンダー社長、待っててくださいよ」
田和馬総合病院、正面玄関ロビーで高木浦賀乃棲(たかぎうらがのす)は待合室の様子を見ながら1人そんなことを呟いていた。
「さてと、これからプリキュアを探さなきゃならねえんだが・・・ヤツラどこに行った?」
「ちょっとそこのアナタどいてくださいっ!車椅子が通れないでしょ」
「ん?ああ、こりゃどうもスイマセン・・・」
待合室でベンチにも腰かけず、ど真ん中でボーッと突っ立っていたウラガノスは車椅子の患者を押す看護婦に文句を言われてその場を離れる。
そして病院の独特の喧騒の中、様々な病人、怪我人、そして医療スタッフを眺めてみて1つの結論に達した。
「・・・・この中からプリキュア達見つけるって・・・大変じゃねえか?」
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「それじゃ今日はお疲れ様アイリくん、明日もまたよろしくね」
「ハイ先生、それじゃあお先に・・失礼します」
「アイリ!アイリよ!」
「って兄さん!?また!?」
やっと今日も仕事を終えて充実感のもと家路に着こうかというところでアイリの目の前にはまた兄の姿が飛び込んできた。
さらに兄だけではなく、他の北斗三兄弟や見知らぬ女の子の姿まである。
「・・・誰かね?アイリくん」
「えっと・・・兄なんです・・・兄さん、まだ何か用なの?」
アイリがそう訝しげに尋ねたところで今度はラブが進み出て問い尋ねる。
「アイリさん、レイさんが心配してるよ?今のお仕事ってホントに自分でやりたくてやってるの?誰かに無理矢理やらされてるんじゃないの?」
「あ・・あなたは?」
「アタシ・・・私立愛治学園に通う中学2年生、PCA21の桃園ラブです。レイさんからアイリさんのコト聞いてきました」
「そう・・・でもねラブ・・ちゃん?心配ないわ。わたしは自分の意思でここで働いてるのよ。ここで就職してなりたかった看護師になれたの。だから心配いらないわ」
「あ!いたいたマミヤさん、いましたよラブちゃんレイさんやケンたちと一緒だ」
「あらホント。ってまたアイリに迷惑かけてない?」
ちょうどその場へマミヤやバット、他のプリキュアメンバー達も駆けつけてきた。現場は待合室。少々緊迫した雰囲気に周囲の患者や見舞客までもがなんだなんだ?と様子を伺っている。マミヤとレイナは思わず恥ずかしくて顔を俯けてしまった。
「ラブ!勝手に行っちゃダメでしょ!?」
「先生たちの言うこと聞かないで・・・どういうつもり!?」
「ひっ・・ひえっ・・だってぇ〜・・・」
「ま、マミヤ姉さんまで・・どうしたの?」
「ゴメンなさいアイリ、スグに帰るから・・・」
「帰るだと!?バカな!アイリ!帰る時はお前も一緒だ!」
「いやだから今から仕事終わって帰るとこ・・・って、さっきからナニ言ってるの兄さん?わけわかんない!」
もはやいい加減この状況が一体なんなのか説明してほしくてアイリは叫び声を上げた。
兄だけでなく、ケンシロウ達北斗三兄弟やこのラブちゃんという女の子、果てにはマミヤ達まで大挙してきて一体何が始まるというのか?
「大体・・ケンシロウさんやラオウさん、トキさんまで一体なんなの?みんなして・・・」
「アイリ、お前を助けに来たんだよ」
「だからぁっ!わたしはここで元気に働かせてもらってます!」
「ああ・・アイリよ。ずっと俺の側で幸せに暮らしていたのに・・・そんなイヤな仕事を無理矢理することなんてないんだ!」
「兄さん、わたしこの仕事大好きなの!看護師さんにずっと憧れていたのよ」
「隠さなくったっていいんだ、アイリ・・俺にはすべてわかっている。メールで地獄の苦しみを吐露していたじゃないか!」
「それは・・まだ新人で夜勤とか結構キツイこともあるから友達に愚痴ってただけ・・・っていつわたしのメール見たの!?」
(うわ〜〜・・イヤだろこんなアニキ・・・)
アイリが信じられないという風な声を上げ、バットもコレは引くなあ・・という表情を見せた時、側にいた医師が柔和な笑みでレイに笑いかけた。
「そうか、アイリくんのお兄さんですか。妹さんのことがさぞかし心配なんでしょうね?アイリくんはよくやってくれてますよ」
「貴様か!?アイリを家畜の如く扱っているというのは?」
「ええ?このオジサンがアイリさんをさらったの!?」
「こらラブ!誰もそんなこと言ってないでしょ!」
ラブが勢い余って誤解を招くようなことを言ったので、あわててマミヤがラブを窘める。それも笑って見逃し、医師はこう続けた。
「現在の深刻な看護師不足によって新人であるアイリくんにも相当の負担をかけてしまっていることは事実です。それは私たち医師の不徳の致すところでもある。誠に申し訳ない」
そう言って医師はレイに頭を下げた。
「先生っ、そんな・・わたし別にそんなこと思ってませんよ」
「そっ・・そんな殊勝なフリをしても騙されんぞ!アイリは俺が何としてでも貴様らの魔の手から救って・・」
「ちょっとお兄さん!」
そこでまだ納得しないレイに、医師の後ろから別のベテランらしい看護師が声をかけた。
「あたしら時にはご飯食べる時間や寝る時間まで削って患者さんのために尽くす大変な仕事やってるけど、医療ってのは命を預かる現場、戦場なんだよ?アイリちゃんも他の看護師もみんな覚悟決めてやってるの・・だから・・」
「ああ、ハイ!わかりましたあっ!」
「すぐに失礼します。ご迷惑おかけしてスミマセン!」
そこまでベテラン看護師に言われてバットとマミヤはレイとラブをそれぞれ引っ張ってきて小声で話をする。
「ホラ、レイさん!やっぱり勘違いじゃないっスか!もう帰りましょう、これ以上いたら仕事の邪魔になるしアイリさんにだって迷惑ですよ」
「ラブ!アンタって娘は!だから先生言ったでしょっ!言いつけ聞かないでホントにもう・・・こんなに迷惑かけて、帰ったらお仕置きだからねっ!」
「ひいぃっ・・そ、そんなあぁ〜〜〜っっ」
ついに恐れていた先生のお仕置きの宣告に半泣きになるラブ、しかしレイはバットの呼びかけにもまるで理解を示そうとせず、こんな事を呟きだしていた。
「不眠不休で食事も与えずにだと・・・?」
「いや誰もそんなコト言ってませんって!忙しくてそうなる時もあるって話してるだけで・・・」
「そんな・・・アイリを・・・俺の可愛いアイリをそんな過酷な目にっ!・・許さねえっ!・・・・
てめえらの血は何色だあぁぁーーーーーーっ!!?」
まさに勘違いもここまで来るとビョーキである。
そんなある意味精神を病んだレイが放った狂気の一言にその場にいた全員が凍り付いた時、ここで空気の読めないこの男がツカツカととある病室に入り込み、採血中の患者を指してこんな一言を言った。
「レイ、取り敢えずこの老人は・・・赤だ」
「こんなわけわかんねえ失礼千万な質問にクソマジメに答えてんじゃねえぇーーーっっ!」
バットが今度は思わず声にだして突っ込んだ。
病院のその空間だけ周りとは隔絶された一種独特の雰囲気を造り出していた。もうこの北斗、南斗の男たちにまともに話をしようという人物はいない。
マミヤ、レイナ、バットがそれぞれ「もう、イヤ・・・」と頭を抱えようとしたその時だった。
「見つけたぞプリキュアぁーーっ!勝負しろーーーっ!」
「!・・な、何!?」
「今声・・プリキュアって聞こえましたよ?先生・・・ま、まさか・・・」
ふと聞こえたプリキュアという声、自分たちの正体を明らかに知っている何よりの証拠。ということは・・・
のぞみとひかりがレイナを見上げると、レイナも声のした方を見据える。
視線の先には赤く、巨大な体躯を誇る大男がいた。「ぐっへっへ・・・」と威圧的に笑いながらこちらへと近づいている。
「ワルサーシヨッカー!?」
「そのとーり!ザケンナー部門、三部長の最後の1人!高木浦賀乃棲とはオレ様のことよ・・・さあ〜プリキュア、サラマンダー社長からの命令だ・・・お前たちを今日、ここでコテンパンにして2度と俺達の邪魔ができないようにしてやる!」
そう言うとウラガノスは「怒れる天空の妖気ザケンナーよ!来いっ!」と叫ぶと彼の手の中に黒紫の妖気が集まり、採血用の注射器に取り憑いた。そのまま煙が上がり、煙の中から巨大な注射器のザケンナーが「ザァーケンナァーッ!」と吼えて現れた。
「きゃあぁぁ〜〜〜っちゅっ・・注射器がっ!?」 「化け物に変わったぞおぉーーっ!?」 「なんだありゃ?ショーかあ?」 「とにかくここにいたら色々危ないし離れろおぉーーっ!」
周囲の通院客や入院患者はそれぞれ突然の事態に圧倒されつつも、看護師や医師に連れられてその場を後に逃げ去った。
「こんなところで・・・まったくもう!」
「ハッハッハ!どうしたプリキュア?このままじゃこの病院が滅茶苦茶になっちまうぞ?さあ行け!ザケンナーっ!」
「ザァケンナぁーーっっ!」
「みんな!行くよっ!」
『うんっ!』
その場で一斉にラブとのぞみの声にプリキュアメンバー達が変身アイテムを片手に隊列を瞬時に組む。
その場で彼女たちの姿を眩い光が包み込んだ。
「「プリキュア・メタモルフォーゼ!」」
「ひかりー!いくポポーっ!」
「ルミナス!シャイニングストリーム!」
『チェインジプリキュア・ビートアーップ!』
「大いなる希望の光、キュアドリーム!」
「はじけるレモンの香り、キュアレモネード!」
「輝く命、シャイニールミナス!光の心と光の意思、すべてを1つにするために・・!」
「ピンクのハートは愛あるしるし、もぎたてフレッシュ、キュアピーチ!」
「ブルーのハートは希望のしるし、摘みたてフレッシュ、キュアベリー!」
「イエローハートは祈りのしるし、とれたてフレッシュ、キュアパイン!」
「真っ赤なハートは幸せのあかし、熟れたてフレッシュ、キュアパッション!」
「おおっ!?プリキュアだ!PCA21のコたちだぞ!」 「ってコトはやっぱショーか?はたまたPVのロケかあ!?」 「いいぞぉ〜、生プリキュアだあーっ、オレはミキちゃんのファンだぞーっv」
「あ、ハーイvミキたんでーっす♪キュアベリーヨロシクv」
「ベリー!気を抜かないで来るわよっ!」
「ハッハッハアーっ!お前達を倒して、サラマンダー様に臨時ボーナス貰うんだよぉ・・行けえザケンナーっ!」
ロケか何かとすっかり勘違いしてるギャラリーの声援が少女達に向けられる。その声に反応しているキュアベリーとそれを窘めるパッション、彼女の言葉が言い終わる前にウラガノスに命令されたザケンナーが「ザァーケンナァーっ!」と咆哮を上げてプリキュアメンバー達に襲いかかってくる。
「みんな!来るよっ!」
「まかせてっ!はっ!やあっ!」
「えいっ!やっ!」
突然病院内ロビーを舞台にザケンナーとプリキュアたちの戦いが幕を開けた。
狭い場所では不利と見たザケンナー、瞬時に自動ドアが通院客のために開いたのを見計らって外に飛び出す。
バットは化け物のクセに窓ガラスとか割らないでそこから行儀良く出るんだ。と思ってもみなかった敵のマナーの良さにちょっと感心しつつ状況を見守る。マミヤとレイナを見ると2人ともちょっと頭を抱えながらもコトの成り行きを自分と同じように見ていた。
外に出たザケンナーを追うプリキュア戦士のお嬢ちゃん達、それを追うマミヤ達と、さらにそれを追うケンシロウ達にまたさらにさらにそれを追う周りの野次馬連中。
「うおぉぉーーーっ!いけえぇ〜〜っ!プリキュアー!」 「こんなトコでPCA21のゲリラショーが見られるなんてラッキーだぜ!」
「ママー、プリキュア!プリキュアだよぉ〜!」 「オレはラブちゃんとのぞみちゃんのファンだぁ〜〜v頑張ってねラブちゃーんっ!のぞみちゅわぁ〜んv」
「せっちゃんしっかりぃ〜v」 「いのりぃ〜っ!オレのヨメになってくれぇ〜♪」 「うららちゃんコッチ向いてぇ〜♪」 「ひかりちゃ〜〜んっ!可愛いぞぉーーーっっ!!」
あっという間に戦いに似つかわしくない野次馬の声が周囲に木霊する。ウラガノスはそんなファンに人気たっぷりのプリキュア戦士がどうにもこうにもガマンならなくなり、イライラしながらザケンナーに言った。
「なぁにしてやがるザケンナー!ファンの前でプリキュア達をコテンパンにしてやるんだ!そうすりゃ赤っ恥かいて今度からコンサートも出来なくなっちまうぜ!」
「ザぁ〜〜ケンナあぁーーーっ!!」
「きゃああぁーーーーっっ」
「いやあぁ〜っ」
「やぁうぅっっ」
「ぅああぁーーーーっっ」
ウラガノスの言葉に奮起したのかザケンナーの振りまわした両腕がキュアドリーム、キュアレモネード、シャイニールミナス、キュアパイン、キュアベリーを弾き飛ばした。
「うっ・・・くっ・・・いたたたたた・・・」
「もぉ〜〜っっ・・やったわねぇぇ〜〜・・許せないっ!オトメに向かってぇ〜〜っ」
地面に倒れて突っ伏したプリキュア達を見てウラガノスが下品な笑い声を上げてさらに追い打ちをかけようと迫った。
「げっへっへっへ!コレでとどめだぁ!二度とワルサ―シヨッカーに逆らおうなんて気になれないようにさせてやるぜっ!」
「いけないっ!のぞみたちが!ナッツ!タルト!」
「よし!」
「プリキュアはんたちがピンチや!なんとかせなっ」
ココをはじめとするする妖精たちが、倒れたプリキュアに近づこうとする。しかし、それよりも、ザケンナーよりも早く、彼女たちの前に立ちはだかってザケンナーに相対した人物が現れた。
「ん?なんだオマエ?」
「!?・・れ・・レイさん!?」
ラブが驚いて声を上げる。
ウラガノスとザケンナーの前にはレイが無警戒にも思える体勢で立っていたからだ。
「待て、キサマ、彼女達をどうするつもりだ?」
「へっ!知れたコト!我らワルサ―シヨッカーに邪魔なプリキュアどもをケチョンケチョンに叩き潰してやるのさ!そうすりゃサラマンダー様もお喜びになるだそうぜ!」
その言葉を聞いてレイは薄く笑うとウラガノスにこう言い返した。
「彼女らは俺の妹を救うために力を貸してくれた、その彼女らを襲おうというのなら・・・今度は俺が力を貸す番だ!」
そう言うとゆら〜り、と何やら見たこともない独特の円を掌で描くような構えをとって呼吸を合わせるレイ。そしてピタ、と一瞬動きを止めると凄まじいスピードでザケンナーの脇を駆け抜けた。
「南斗水鳥拳!・・・ヒョォオーーゥ・・・・シャオウッ!」
突然巻き起こった突風。風が駆け抜け、その激しさに思わず「うおっ!?」とウラガノスは顔を覆った。
一拍後、ふと目を開けて自分の体を確認してみる。なんともない。ダメージや痛みを受けた記憶もない。
「・・・な・・なんでぇ、へへっ不発か?ビックリさせやがってなんともねえじゃねえか」
しかしそう余裕気味に言った時だった。
とつぜんザケンナーの体に閃光が走った。と思うとザケンナーは突然地響きを立てて地面に倒れ込んでしまった。
「ってどぉうわあぁーーーーっっ!??なんだ!?なんだなんだ!?どうしたザケンナーよ!一体何があった!?」
「南斗水鳥拳、動きは水辺に降り立つ鳥の如く優美華麗、しかしその実態は触れるもの全てを切り刻む残忍獰猛な必殺拳だ」
激しく動揺するウラガノスにケンシロウの空気の読めない冷静な解説が響く。
その様子を見て訳はイマイチわからなかったが、蒼野美希がメンバー全員に号令をかける。
「よし・・今よみんな!一気に合体技で片づけちゃいましょう!」
「OKベリー!ルミナス!お願いっ!」
キュアドリームこと夢原のぞみの言葉にうなづいて九条ひかりが駆け出した。そのまま起き上がろうとするザケンナーの前に立ちはだかる。
「光の意思よ!わたしに勇気を!希望の光を!」
ルミナスが虚空に問いかけると光が発生しそこからバトンのようにも見える不思議なアイテムが飛来した。受け取り目の前に翳すと空中で静止する。そこから弓のように変化して円を描くと、ルミナスは勢いよく両手を前に突き出した。
「ルミナス・ハーティアルアンクション!」
するとそこから虹色に輝く帯状の光が放射しザケンナーを包み込む。包みこまれたザケンナー、見る見るうちに体の動きが鈍重になり、ついには拘束されたように動かなくなった。
「みなさん!今です!」
「夢見る乙女の底力、受けてみなさい!プリキュア・ドリームアタぁーっク!」
「輝く乙女のはじける力、受けてみなさい!プリキュア・レモネードフラーッシュ!」
「とどけ、愛のメロディー・・キュアスティック・ピーチロッド!」
「響け、希望のリズム・・キュアスティック・ベリーソード!」
「癒せ、祈りのハーモニー・・キュアスティック・パインフルート!」
「歌え、幸せのラプソディー・・パッションハープ!」
「プリキュア・ラブサンシャイン・・」
「プリキュア・エスポワールシャワー・・」
「プリキュア・ヒーリングフレア・・」
「吹き荒れよ、幸せの嵐!」
『フレーッシュ!!』
「ハピネスハリケーン!」
それぞれの必殺魔法が輝く光と共にザケンナーにヒットし、黒い体の化け物は「ザぁ〜ケンナぁ〜〜っっ」と悲しそうな断末魔を残しつつ消滅してしまった。
「あああぁーーーっっクッソぉ・・もうちょっとだったのに!ヘンなジャマが入らなけりゃ・・・」
哀れ、ウラガノスは悔しそうに呻いてその場から退散してしまった。
「え?ここのベッドを貸して欲しいの?」
「ええ、そのコの手当てが終わったらね・・」
「それはいいケド・・何する気なのマミヤ姉さん」
「・・・ちょっとヤボ用があるのよ。ねえ?ラブ」
マミヤは慣れた手つきでラブの傷を処置するアイリに、努めて落ち着き払ってそう言った。その先生の言葉に、右手の擦り傷に消毒液を塗ってもらっている桃園ラブは真っ青な顔でガタガタと震え、目にはもはや涙が溜まっていた。
あの騒ぎの後、場はPCA21のゲリラショーということで大騒ぎにはならなかったが、さっきの戦闘でラブは知らない内に腕に擦り傷を作ってしまった。
ケガ自体は大したことは無いのだが、彼女は今人気のアイドル。アイドルが体に傷を作る訳にはいかない。
しかも今回のラブはココまでいつもの猪突猛進さ加減ゆえにアイリをはじめ病院の関係者にも多大な迷惑をかけてしまったのだ。仕事の邪魔、大声で騒いで他の患者さんへの迷惑。
PCA21のルール上、ここまですれば後はどうなるかわかりきっている。それを察したのか、のぞみやせつな達も、可哀想・・と同情の目を向けながらもラブとマミヤを2人きりにさせてしまった。
「アイリ、今日はホントにゴメンナサイ、迷惑かけちゃって。ホラ!ラブも謝りなさい」
「ご・・ゴメンなさい‥」
「クスっ、いいのよラブちゃん、わたしのコト心配してくれたんでしょう?それに、もともと兄さんが原因だし・・」
「アイリ、悪いんだけど、少しこのコと2人だけにさせてくれる?」
「?え・・ええ、いいわよ。じゃ、ラブちゃんまたね」
「いっ・・行っちゃうの?ねえアイリさん行っちゃうの!?」
「ゴメンネ。少し残務処理だけしたら今日は帰るから・・」
「ねえ!置いてかないで・・・置いてかないでよおっ!」
そんな悲痛なラブの哀願とは裏腹に、アイリは笑顔を残してその場を去ってしまった。
「・・・・・」
「・・・さて、ラブ?」
「ひゃっ・・・ひゃい・・・?」
マミヤはベッドに腰掛けると厳しい眼差しをラブに向けそしてゆっくりとお説教を始めた。
「先生言ったわよね?今回はレイさんの勘違いだろうから付いて行っちゃダメだって」
無言のまま、ラブは震える体でうなづく。
「なのに言いつけ守らないで・・病院の人にも他の患者さんにも散々迷惑かけて・・いけないコ」
「うぅ〜〜・・だって・・・だってレイさんが・・・っ」
「言いつけ守らない悪い娘はどうなるのかなぁ?」
言いながら無言で膝をポンポンと叩くマミヤ。
その様子に反射なのか?ラブは血相を変えて脱兎のごとくその場から逃げだそうとした。しかし・・・
はしっ
「やあぁ〜〜〜っっ・・いやあぁ〜〜〜っはっ・・はなしてえぇ〜〜〜っっ」
「はなしてじゃありません!言うこと聞かないでたくさんの人に迷惑かけて!アイドルがそんなコトでどうするの!ホラ、悪いコのお尻だしなさいっ!」
「やだあぁ〜〜〜っっ」
ジタバタするラブを強引に膝の上に組み伏せて、そのままデニムの短ジーンズを引き下ろし、可愛いパンツまで膝までずり下げる。
形が良く、適度に引き締まりながらもプルンッとした柔らかなラブの可愛いお尻が顔を出した。
そのままはぁ〜・・とてに息を吐きかけるマミヤ。その動作を感じ取ったのか、ラブはビクン!と体を強張らせた。
ヒュンッ!
パアァーーーンッッ!
「うあああぁあっっ!!?」
ペーーーーンッッ!
「ぃっっきゃああぁぁぁ〜〜〜〜〜っっっ!」
力強く打ちつけられたマミヤの必殺の平手打ち、白かったお尻に真っ赤な紅葉が二つ刻印され、真っ赤に浮かび上がる。
息がとまる程の激痛。乾いた音に一瞬待って、ラブの甲高い悲鳴が響き渡った。
ぱぁんっ! ぱん! パン! パァンっ! ぺぇんっ! ぺんっ! ペン! ぱしぃーんっ! ぺしぃーんっ! ぴしぃーーっ! びしっ! ばしっ! ピシィッ! パチィンッ! ぺちぃーんっ!
「きゃああぁっっ!?・・・あ!ああぁ!?・・やっやっ・・やああぁんっっ!・・イタイっ・・いたぁいっ・・いたぁいっ・・せっ・・せんせえぇ〜・・イタイよおぉ〜〜・・ひぃぃ〜〜んっ・・・」
「痛くないとお仕置きじゃありません!」
ぱちぃーーんっ! ぺちぃーんっ! ばちぃんっ! べっちぃんっ!
「ぃやあぁぁ〜〜〜んっっ・・きゃあぁあっ・・いったあぁぁいぃい・・・せっ・・センセぇのいじわるぅ〜〜・・わぁ〜〜んっっ」
「いじわる〜・・じゃないでしょ!このおバカ!先生はレイさんと知り合いだから大丈夫って言ったでしょ!どぉして人の話聞かないでなんでもかんでも自分で突っ走ろうとするのアンタって子は!?それが沢山の人に迷惑かけちゃうってなんでわからないの!?」
「ああぁ〜〜〜んっ・・だってだってぇ〜〜・・ホントにアイリさんが悪いヤツに捕まってると思ったんだもん!」
「そう言うことは警察の人に任せればいいのっ!勝手に判断して病院ひっかきまわして・・・ここにはお医者さんだけじゃなくてたくさん病気の人もケガをした人もいるのよ?その人達のコトなんで考えないの!?」
「わぁ〜〜ん・・だって・・だって・・」
ビッタアァンッ!
「ぎゃああぁあぁっっ!!」
「言い訳ばっかり・・・今日は泣いても喚いてもラブが心から反省するまでぺんぺんしますからね!」
「もぉ、そんなのいらな・・・」
びしぃ〜〜んっっ!
「ひきゃああぁ〜〜〜っっ」
ぱんっ! ぱぁんっ!ぺんっ!ペンっ! ぱちんっ! ぺちんっ! パンッ! パーンッ! パチーンッ! ペチーンッ! パッチィィンッ! ペッチィ〜〜ンッ!
「きゃああぁ〜〜んっっ・・きゃうっっ・・やんやんやあ〜〜んっっ・・あぎゃあぁっっ・・ひいいぃ〜〜っっ・・ひっっ・・ヒイイィーーーっっああぁ〜〜〜〜んっっ」
ぱちぃーんっ! ぺちぃーんっ! バシッ! びしっ! ビシーンッ! ぴしゃんっ! ピッシャンっ! パアァーンっ! べちぃんっ! バッチィンッ!
「ぎゃあぁ〜〜んっ・・いたああぁっっ・・イタイっ・・いっ・・だあぁぁ〜〜っっ・・きゃあぁんっ・・ぴぎゃあぁっ・・ぎゃぴぃ〜〜〜っっ・・いだいぃ・・いだいよぉぉ・・・も・・もぉ〜ゆるしてぇ〜〜・・」
パチィーン! べちぃーんっ! ぺっちぃ〜んっ! ぴしゃあぁーーんっ!
「ああぁぁ〜〜〜んっっ・・うえっうえっ・・うええぇぇ〜〜〜んっっ・・びぃえぇぇ〜〜んっっ・・ゆるしっ・・ああぁんっ!・・ゆるちてぇぇ〜〜・・ごめあしゃっ・・ゴメンなさぁ〜〜〜いっっ」
ばしぃんっ! ぴしぃーーっ! ぴしゃぁんっ! ピシャンッ! ぴしゃんっ! ぴっしゃんっ!
「びぃええぇぇ〜〜〜んっ・・わあぁぁ〜〜んっ・・ええぇぇ〜〜〜んっ・・も・・オシリぃっ・・きゃああぁぁ〜〜んっっ・・おっ・・おし・・りっ・・いたぁぁ・・やあぁぁ〜〜〜んっっ」
もうお尻を襲う激痛に大泣きのラブちゃん。
真っ白でミルクプリンのようだったお尻はマミヤ先生の厳しい平手の雨が幾重にも降り注ぎ、真っ赤に腫れ上がってプク〜っと膨れてさえいた。
桃のプリキュアのお尻は可哀想に真の桃尻と化してしまい、その桃尻の持ち主は目から大粒の涙を迸らせ、可愛い顔は涙と鼻水でグショグショ、体は脂汗でビッショリだった。そんなラブにそろそろかとマミヤは声をかける。
「ラブ?ちゃんと反省できたの?」
「ひくっ・・えぐっ・・うえっく・・ひぃっく・・ご・・ごめっ・・ゴメなしゃっ・・ごめぇぇ〜〜・・」
「じゃあ最後・・・麻美耶無情破顔拳(まみやむじょうはがんけん)!」
麻美耶無情破顔拳とは!?
藤田麻美耶の仕置き拳法の1つである。
もはや泣き崩れている可哀想な生徒のお尻に情けも容赦もない必殺の平手打ち、計10発を叩きつけ、地獄の激痛を味わっている子にさらに地獄の痛みを思い知らせる残忍獰猛な必殺拳である。
しかも叩かれてマヒしていない敏感な柔肌を見つけて的確に打ち据え新鮮な痛みを味わわせようというのだから少女達からすればただただ恐ろしい悪魔の必殺拳なのである。
「もうあんなコトしちゃダメよ!」
ぺんっ!ぺんっ!ぺんっ!ぺんっ!ぴしゃぁーーんっ!
「めっ!めっ!めっ!悪いコ!イイコになあれ!」
ぱんっ!ぱんっ!ぱあぁんっ! ぴっしゃああぁーーーーんっっ!!
「びぃええぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜んっっっ・・・・」
「ふえっ・・ふえっ・・うえぇぇ・・ええぇぇ〜〜んっ・・・」
「ラブ、もう先生の言いつけ破っちゃダメよ、ちゃんとイイコになろうね?」
お仕置きが終わった直後、真っ赤っかに腫れ上がったお尻を濡れタオルでゆっくり冷やしてあげ、髪を優しく撫でてやるマミヤ。
先生の話に何度も何度も泣きながら頷くラブはもうこんなに痛い思いは絶対にゴメンだ!とひりひりズキズキするお尻を感じながら先生の言うこと聞こう。と思った。
「ええ!?そんな・・コレ・・兄さんがやったの?」
目の前に広がる大きく傷跡の残った病院の玄関前の柱や道路を見てアイリは絶句した。
あのザケンナーに放ったレイの南斗水鳥拳、余波がそのまま周辺に飛び火し、病院の施設を損壊させていたのだ。事情をレイナやバットから聞いたアイリはもちろんのコト、お仕置きを終えて、まだグズグズと泣き甘えているラブを抱っこして来たマミヤもレイの拳の度を超えた破壊力に冷や汗をかいた。
「び・・病院で暴れるなんて・・・信じられないっ!」
「あ・・あのねアイリさん、コレにはちょっとしたワケが・・」
「アイリ!オレはアイリのことを思えばこそっ・・」
「バカ!もう兄さんなんか大キラいっ!」
と、アイリからその言葉を聞いた瞬間、レイの体が今までになく、そう、まるで電流でも流されたかのように硬直した。
「あら・・ヤバイわ・・どうしよう?」
「え?先輩?」
「ヤバイって何がっスか?」
マミヤがボソリと言った一言の真意が気になってレイナとバット、そしてプリキュアメンバー達がマミヤの方を向いた。しかし、訳を聞くより早く、その場でレイに変化が起こった。
突然うな垂れながら洗面所に入ると、その扉を閉めた。
そして・・・・
「うおわああっ・・おわあぁっっ・・はぁぐっ・・うあっひああっ・・あがががががっっ!おおおおぉ〜〜〜〜っっ!」
1人で何をやらかしたのか?
とんでもない絶叫とドッタンバッタンドンガラガッシャンと何やらのたうち、暴れ回る音が聞こえ、そしてやがてシ〜〜〜〜ン・・と物音ひとつしなくなった。
「・・・ど・・どうしたの?」
「コワイ・・・」
美希とひかりが呟くと、その直後ゆっくりと扉が開いた。
「きゃああぁぁーーーーーーっっっ!!」
中から出てきたのはヨロヨロと痩せ衰え、髪が真っ白になった生気の無いレイだった。
「えええぇえぇーーーーっっっ!?」
「白髪になるほどのショックだったのおぉおぉおーーーーーっっっ!!??」
レイナもバットも起こった現実ではまずお目にかかり得ない現象に叫び声を上げた。
「フ・・・フフフ・・・俺・・に、もう弱点は・・・ない・・アイリは・・・俺から離れた・・・」
「い・・痛々しすぎんぞこの姿・・・」
「レイ、お前の勇姿は俺が語り継ごう・・・」
ボロボロになって、ゾンビのように帰途につくレイを見ながら、バットとケンシロウは真逆のことを言った。
「ゴメンなさい先生!いつもはあんな兄じゃないんです!クールでカッコ良くて強くて・・・で・・でもわたしのことになると・・・っっ」
「本当にすみません!レイはアイリが絡むともう何も見えなくなってしまって・・・でも本当はいい人なんです!ゆるしてあげてくださいっ!」
「・・・ねえ、のぞみちゃん・・」
「・・何?ラブちゃん」
「・・・オシリ・・まだスッゴク痛くて、先生のことキライ・・なんて思っちゃったけどさ・・・」
「うん・・あたしも思う時ある・・」
「でも・・先生たちってすごく大変・・」
「・・・そだね。レイさんのことなのにあんなに謝ってる・・悪いコト、やっぱりしないようにしよっか・・・」
その後、プリキュアメンバーの女の子たちも同情するほど病院の関係者に謝罪するアイリとマミヤによって大事には至らず、柱と道路の工事費を払うというコトで兄妹も仲直りしたそうです。
数日後には彼の髪の色は元の綺麗な蒼髪に戻っていましたとさ・・・。
シスコンが
妹絡むと
ノーコンに。
つ づ く